説教節

説経節の歴史

 遠く中世の昔から現代まで、幾度かの盛衰を繰り返しながらも奇跡のように蘇り、日本人の「心」と「情」をその時代その時代の庶民のわかりやすい言葉で物語を語り続けてきたのが説教節なのです。

“説経”とは,元来僧侶が庶民を仏法に導くために経典教義を説くことを意味しており中世になると文字の読み書きができない庶民への教化という動機から、しだいに音韻抑揚を伴うようになり、歌謡芸能化して説経節となり民衆の間に広まっていきます。

室町時代に「山椒(さんせう)太夫」「小栗判官」「俊徳丸」「かるかや」など現代まで語り続けられている有名な物語が説経節によって語られました

江戸時代になると三味線を伴奏楽器に取り入れ、洗練される一方、操り人形と提携し小屋掛けで演じられると人気を博し、京都、大阪、江戸などで流行して全盛期を迎えます。しかし、義太夫節の出現によりしだいに衰退して行きます。

約八十年後、江戸で薩摩若太夫の出現により復活し、仏教の教えだけでなく、人間の喜怒哀楽も表現する説経浄瑠璃として人気を集め、その後再び衰退し始めても、八王子、秩父、横瀬、騎西など関東地方に残りました。

 明治になると若松若太夫が現れ、作家の村井弦斎等の協力により詞章を近代的に整理すると同時に、曲節もより音楽化して一世を風靡しました。

講師プロフィール

PICT0004説経節 政大夫

説経節 二代目若松若太夫に入門、若松政太夫の名前を許される。以後、師匠若太夫と共に舞台を勤め、テイチクレコードより若太夫と共に「小栗判官矢取の段」「しんとく丸」を吹き込み、三味線の手付の補曲を受け持つ。
1999年 若松政太夫から説教節・政太夫に改名
2014年 説経節政大夫に改名する
【問い合わせ先】090-3687-1290

説経節 Q&A

Q まず初めに説経節を簡単に説明してください。
A 説経は説教とも書きますように、もともとはお坊さんが民衆に仏法の教えをわかりやすく説いて聴かせるためのものです。やがて中世になり仏教が一般庶民の間に広まるにつれて歌謡芸能化して行きました。道端で傘を立て、その下でササラという竹の打楽器を鳴らしながら物語を聞かせていました。その頃に現在も残っている「五説経」と言われる物語が出来ました。
 やがて江戸時代のはじめに京都で人形芝居と組んでから、大阪や江戸でも大流行しました。それは琉球(沖縄)から三味線が伝えられ、音楽的に発達したことも大きな理由であると思います。しかし、近松門左衛門が現れ、竹本義太夫が義太夫節をおこした頃から説経節は衰退して行きます。
 しかし、幕末に江戸の本所四ツ目で薩摩若太夫が「さいもん節」を取り入れ、再興しました。やがて明治になると若松若太夫が現れて文章や節付に改良を加えて再び流行しましたが、第二次世界大戦とともに世の中から消えてゆきました。
Q その物語はどのようなものが有りますか
A 代表的な物語は五説経と言われるものです。時代によって変化しますが、「小栗判官照手姫」「山椒太夫」「石童丸」「葛の葉」「しんとく丸」他に「愛護の若」「松浦長者」「隅田川」「殺生石」「百合若」等です。過酷な運命にみまわれた主人公が、諦めずに努力を続けた結果、苦難の末やがて神仏の力を借りて幸せになる、と言うような話が多いと思います。
Q 説経節の特徴はどのような所にあるのですか
A 現在伝わっている伝統邦楽、三味線音楽は大きく分けると「うた物」と「語りもの」に分けられます。しかし何れも江戸時代に歌舞伎と共に発展した流儀は踊りの伴奏として作られたものが多く、音楽的に洗練されて行きました。説経節は三味線伝来以前のものですし、歌舞伎とも無縁でしたので、より素朴な「語りもの」のにおいが強く残っていると思います。
Q 「語り」とは具体的にはどういうことですか
A 物語はもともと言葉を口に出して語り、耳で聞くものだったはずです。人の口からひとの耳へと伝えたのです。それが現代では文章で残されているので目で読むものになってしまいました。しかし実際は物語を語り、聞いて感動させるのが語りだと思います。
Q 説経節のどんなところが魅力なのでしょうか
A まず第一に登場人物が魅力的ですね。義理や人情のしがらみの世界で生きている人間達でなく、精神的に自由な世界に生きていて、いわば神話と人間世界の両方を行き来するような、そんな所が魅力です。第二に語りかたにリアルな所があり、あまり「型」にとらわれず、人間の生の叫び声で愛憎から神話の世界まで表現出来る可能性を持った芸能だと思います。
Q 奏楽器である三味線については
A 物語を伝えるのは語りで、その語りの表情や気持ち、また辺りの情景などを伝える音楽として三味線があると考えます。だから心地よいメロディーを聴かせるだけでなく、三味線の一音、ひとつ一つの音色がすべてを表現するのではないでしょうか。その為には色々な音色が必要です。
Q 説経節は語り中心で、いわゆる音楽として考えないほうが良いのですか
A そうは思いません。もちろん語りが中心になりますが、三味線と共に表現するのですから音楽とも言えます。ただ西洋音楽の理論に当てはまると言う意味に取らないで欲しいと思います。やはり言葉に対しての音楽であり、旋律としての音楽ではないのです。
Q では演奏する語りとはどのようなものですか
A 語りを聞いて物語のストーリーが解るという事、話の筋が理解出来ると言うだけでなく、主人公の性格や感情の起伏、その場所の情景、季節などが映画を見ているように心の中に浮かび上がらせる事が目標でしょうね。声で文章を語ることで、より立体的に物語の中の空気の温度や匂いを、聞いている人に感じさせるようにすること。その物語の現場に立ち会っているような気持ちに聞き手をさせるのが目標だと思います。
Q 古典の説経節とその伝承について
A 古典の伝承は大変に大事なことだと思います。一つの演目でも、何人もの演奏家が何世代にも渡って磨き上げて来たものですから、それを個人の感覚で変化させることなどなかなか出来るものではありません。しかし磨かれているものもあれば、また衰退しきってかろうじて残っている曲もあります。それらをどう扱って行くのかの見極めはたいへんに難しいのです。